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Bill Bruford's Earthworks featuring Tim Garland
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ビル・ブルフォード=アースワークス
ビル・ブルフォードは30年以上にもわたるプロのドラマーとしても経歴を持ちながらも、自身で組んだバンドは少ない。自分の名を冠したバンドのブルフォード、ラルフ・タウナー、エディ・ゴメスとのトリオ、そしてこのアースワークスだけである。その中でも特に今回来日するアースワークスは、ビル自身が原点回帰を実現するために結成したバンドというだけに、非常に重要な意味をもつバンドである。

ビルのバンド遍歴は、既にひとつのブリティッシュ・ロックの歴史ともなっている。イエス、キング・クリムゾン、U.K.と一癖も二癖もあるバンドを渡り歩き、また、パート・タイムながらジェネシスやゴング、ナショナル・ヘルスなどで、ビルは長い間ドラムを叩いてきた。いずれもブリティッシュ・ロックを語る上で忘れることのできないであろうバンドだ。
この中でも、ビルはキング・クリムゾンでの活躍が長い。そこでビルが追求してきた拍子の細分化によるリズム解釈と大胆なインプロヴィゼイションは、ブリティッシュ・ロックの可能性を大きく広げた。これだけでも、ビルの演奏は後世まで語り継がれることは確実である。
その独自のリズム解釈に裏づけられたビルの個性的なドラミングは、また、多くのミュージシャンを惹きつけてきた。パトリック・モラーツ、渡辺香津美、井上鑑、デヴィッド・トーン、ニュー・パーカッション・グループ・オブ・アムステルダム、ピート・ロケット、ゴーディアン・ノットなど、ビルのドラミングに魅了され、共演した者は数知れない。
しかしながらビルは、多くのロック・ドラマーとは一線を画する。ビルは彼らに共通する、力と迫力でビートを押し出すタイプのドラマーではない。むしろ細かいスティック捌きが生み出すそのドラムの音は、繊細なものだ。その繊細さは、キング・クリムゾンで共演したドラマーのパット・マステロットを驚愕させたほどである。

多くのロック系のドラマーは、低く、太いスネア・ドラムの音を好む傾向がある。それに対してビルは、ピッコロ・スネアと呼ばれる音の高いスネア・ドラムを一貫して使用してきた。バン、バン、と、低音の迫力あるスネアの音を彼らが望むのに対して、ビルは、スコーン、と響く、高音の抜けの良い音をピッコロ・スネアから叩く。これがビルのドラムが繊細に聴こえる理由の一つだ。
またロックの世界では、ドラマーがバンドの中でメトロノームの役割を果たすことは、暗黙の了解となっている。しかしビルはドラマーでありながら、どんなに複雑なリズムであれ、この役割を嫌う。むしろ拍子を細分化し、通常とは異なるアクセントを叩くことで、リズムに新しい表情を見させることをビルは好むのだ。ビルはこれを時計の長針と秒針の関係を比喩にして、説明することがある。長針がゆっくりと回っている間に、秒針が小刻みに刻むことで、大きなパルスの中で小さなパルスが幾つも息づいているような効果を与える。具体的に言うと、4/4拍子を演奏する場合、通常は4部音符が4つという数え方をする。しかしビルは例えば4/4拍子を16部音符まで分け、合計16個の音符を33334とアクセントをつけて演奏する。こうすることによって、同じ拍子でも全く違った表情を見せるようになる。即ちビルは、タイム・キープという非創造的な作業には甘んじず、常に音楽的で創造的であろうと、ビルは実践してきたのだ。
この姿勢は奇数拍子(変拍子)を相手にしても、変らない。むしろビルは奇数拍子の連続をものともしないばかりか、それを先の細分化/再構築するという離れ業をやってのける。この彼独自の拍子解釈と繊細なドラムが、ビルをロックの世界で唯一無二のドラマーにしてきたのだ。
この独特のドラミングは、ビルが幼い頃より好んだというジャズに根ざしている。幼少の頃よりテレビで放映されるジャズのレギュラー番組を見るのを楽しみにし、また、80年代中頃のインタビューでも、ジョン・コルトレーンの『至上の愛』(64年)を好きなアルバムにあげているのだから、ビルのジャズ好きは筋金入りである。また変拍子のリズム解釈は、ジャズ・ドラマーのジョー・モレロによる演奏から影響されたものだ。そしてビル自身は、長い間ロック・バンドに在籍しながらも、常にジャズを演奏することを夢見ていたという。そのビルがジャズを演奏するために自ら結成したのが、このカルッテット、アースワークスだった。

アースワークスは、その音楽性と演奏者の構成から、大きく二つに分かれる。85年12月から94年まで活動したアースワークスと、ビル以外のメンバーを一新し、98年より活動を始めた、現行のアースワークスである。
便宜上、前者をアースワークス1、そして後者をアースワークス2と区別して呼ぶのだが、アースワークス1の特徴は、何と言ってもビルの叩くエレクトリック・ドラムである。エレクトリック・ドラムとは、簡単に言うと、通常のドラムと同様に組まれたパッドをスティックなどで叩くことで、パッドから直結されたシンセサイザーの音源から音を出すドラムだ。シンセサイザーをドラム・キットで演奏していると思えば、間違いない。
このエレクトリック・ドラムをビルが使い始めたのは非常に早く、81年のことだった。このエレクトリック・ドラムの導入は、ビルに様々な音色と音階という特色を与えた。特にシンセサイザーを通じて音階を奏でたビルのドラミングは、後年にはビル自ら「コーダル・ドラムス」と呼ぶ独自のドラミングに発展した。この音階を伴ったドラミングでジャズを演奏することを目的としたのが、このアースワークス1である。そのため普通のジャズよりも、派手な印象を私などは持ったものだ。
現行のアースワークス2は、1とは対照的に、エレクトリックな要素を音楽から完全に排除している。―― ビルはエレクトリック・ドラムを15年以上も積極的に叩いてきたが、その一方でひとつ大きな問題を常に抱えていた。それはエレクトリック・ドラムが、アコースティック・ドラムとは異なったテクニックをビルに要求したことである。アコースティック・ドラムが、音の強弱や打面の位置など繊細なスティック捌きを十二分に反映するのに対し、エレクトリック・ドラムはこのテクニックをほとんど要求しない。そのため長年エレクトリック・ドラムを叩きつづけた結果、繊細なスティック捌きという根源的なテクニックが、ビルの中から失われつつあった。そこに疑問を感じつづけたビルは、一度は停止したアースワークスに再び息を吹き込もうとした時、その疑問を払拭することにした。
まずビルは、自分のドラム・セットをアコースティックで統一した。ついで、セットから無駄を省いた。残ったのは、スネア・ドラム、タム、バス・ドラム、ハイハット、シンバル、そしてカウベルというシンプルなものだった。
更にビルはこれまでの長いドラム人生の経験を活かし、通常とは異なる形に、ドラム・セットを組み上げた。バス・ドラムのすぐ上に置かれたスネア・ドラムを中心とし、その左右扇状に4つのタムが水平に並べられた。通常は左に位置するハイハットが正面に配置され、そのすぐ横にはカウベルが置かれた。これはビル自らが2001年にイギリスで行ったドラム・クリニックで語っていたのだが、数あるパーカッションの中からカウベルだけをセットに採用したのは、シンバルやハイハットよりも余韻が短いのでドラミングの表情を変えることが出来るためだ。このシンプルでありながら新しい配置を持ったドラム・キットは、アースワークス2の特徴のひとつとなった。
アースワークス2には、もうひとつ特徴がある。それは、ビル自身が五線譜を使って作曲に勤しんでいることだ。ビルの書く奇数拍子(変拍子)を駆使したメロディとリフは、独自の浮遊感を持っている。だが、自身のバンド以外では聴くことが難しい。それというのもキング・クリムゾンやイエスといったグループでは、ビルのドラミングはその音楽に必要不可欠なものだったにも関らず、ビルの書いたメロディやハーモニーは必ずしもそうではなかったからだ。むしろキング・クリムゾンでは、リズム以外のビルのアイデアは、退けられることが多かったという。テンション・ノートを多用した音使いをするバンドの色に、浮遊感のある曲は合わなかったということだろう。そのためビルが書いたメロディはキング・クリムゾンでは採り上げられることがなく、埋もれたままになっていた。

しかしながらこれらのバンドで活動していた間も、曲を書きたいという欲求が、ビルの中で収まらなかった。むしろ90年代に入ってからは、その欲求が大きかったように思える。事実、キング・クリムゾン時代からの盟友である、トニー・レビンのソロ・アルバム『ワールド・ダイアリー』(95年)では、自らエレクトリック・ドラムでメロディを奏でているし、また、ビルがラルフ・タウナーとエディ・ゴメスを招いて制作した『夏の幻影』(97年)の曲は、全てビル自身のペンによるものだ。
ビルの作曲への欲求と、エレクトリック・ドラムへの疑問を経て改めて感じたアコースティック・ドラムの重要性、そして、自らの音楽の基本であるジャズへの回帰が結実したのが、現行のアースワークス2である。いわばこのバンドは、ビル自身の芸歴の集成とも言えるかもしれない。
そのアースワークス2も98年にイギリスで活動を始めてから、6年が経とうとしている。もう6年か、が、正直な感想だ。長年、紆余曲折有るものの、自身の活動の場の中心とし、また、心のよりどころだとも発言していたキング・クリムゾンからビルが脱退してから、随分長い年月が経ったものだ。
そしてこの6年の間、自らの力の限りを注いできたのが、このアースワークスである。ビルはセッション活動が多いことでも知られるドラマーだが、このアースワークスが活動している間はセッション活動がほとんどない。それ故に、このバンドへのビルの力のいれよう、また、期待の高さがわかるだろう。

少々、ビル自身のことに話が傾きすぎたようだ。ここでバンドのメンバーについて、触れておこう。既にアースワークス2の最初の活動から、2人のメンバーが交代している。
ビルを除いて一番長く在籍しているのが、ダブル・ベース(ウッド・ベース)のマーク・ホジソンだ。ロンドンのジャズ・シーンでビル自身が見出したという彼の腕前の確かさは、折り紙つきだ。何しろドラムの女房役を務めるベースに選ばれ、そして長年付き添ってきているのだから。―― 以外に知られていないことなのだが、ロンドンを中心としたジャズ・シーンは熱い。数多くのジャズ・バンドが、毎晩毎晩しのぎを削っている。ここ数年、私もロンドンに行く度にジャズ・クラブに足を運んでいるが、そのレベルの高さにはいつも圧倒されるほどだ。その中でビルの目にとまり、相方に抜擢されたベーシストというのだから、これまで埋もれていたのが不思議なくらいだ。これまでアースワークス2は2回来日しているが、その度にマークは素晴らしいベース・ソロを聴かせてくれた。今回も、期待できるだろう。
ティム・ガーランドは、サックス、バス・クラリネット奏者として、去年アースワークスに加わった。チック・コリア・バンドやラルフ・タウナー、ジョン・テイラーらとの活動でその名を知られる彼もまた、素晴らしいプレイヤーである。同時に作曲の腕もいかんなく発揮しており、それはビルのお墨つきだ。去年のアースワークでの来日時に、その演奏と作曲の腕を遺憾なく発揮してくれたことは記憶に新しい。前任のサックス・プレイヤーだったパトリック・クラハーが、どちらかと言えば内向的な演奏をしていたのに対して、ティムは力強く大らかな演奏をする。この大らかさがビルの曲調を広げるのが、何と言っても現在のメンバーのアースワークスにおける魅力のひとつとなっている。
そして今回、アースワークスの新しいピアニストとして白羽の矢が立ったのは、グウィリム・シムコックだ。弱冠22歳のグウィリムは、イギリスの白人ジャズ・シーンでは現在、ピアニストそして作曲家として注目株だ。既にこの若さながら彼はまたグウィリムはバンド経験が豊富で、中でも、ケニー・ウィラー、ピート・キング、そしてアースワークス1から世界へと羽ばたいたイアン・バラミーらとの共演は、彼の腕の確かさと周囲の期待の大きさの現れだといえよう。一方で自身のピアノ・トリオでも活動を行っているばかりか、マルコム・クリースの率いるドラムレス・トリオのアコースティック・トライアングルでは、ティム・ガーランドと同じ釜の飯を食べている。

これらツワモノ揃いとなったアースワークスが、ビルの積年の夢であったジャズを演奏する。ビルのこれまでの経験に基づいた変拍子を基調としたジャズを、この面子が一体どのように料理するのか。彼らの面構えを見ていると、期待ばかりが大きくなる。その期待を超えた演奏で、イギリスの熱いジャズ・シーンを日本できっと体感させてくれることだろう。
(永田喜文)